私の建築の師匠 宇野友明さんを月1で名古屋に訪ねていますが、ある時「掃除機をデザインしているんだよ」と楽し気に言われて、ピンと来ました。
「労働としての掃除機=ルンバ≠掃除を楽しむための掃除機」
世の中の仕事の大半も近い将来このように2分化すると思います。労働としての仕事はAIがして、人間は快楽としての仕事をすることになるでしょう。
良いか悪いかはわかりませんが、「快楽としての仕事」ではない仕事は無くなる。(仕事をしなくてもベーシックインカムで食べられることになるのが前提です)
面白い本を読んでいます。
先進国が途上国からの利ザヤを取る 資本主義のモデルは、途上国が発展していく20世紀後半からは、採算が取れなくなり、実態経済を反映しない「電子・金融空間」を発明して活路を求めたと。欲しいものが無い、のに株価だけは上がっていくそれが金融空間です。実態を反映していないので、ギャップを埋めるために3年に一度弾ける、それが金融バブルです。
発展の余地が無い、未開の地が無い、欲しいものが無い、投資先が無い、状況は金利の低さ(利子率革命)に反映されます。投資する対象が無いので、マネーゲームだけにしか投資できない。金融が実態経済を反映しないということは、会社が儲かり、会社の株価が上がっても社員の給料に反映されないなどの事象が起こります。これは1989年あたりから起きているそうです。
大切なのは、資本主義が行きついた先は、皆が幸せになれない仕組みになった ということです。
資本主義=近代主義ですから、近代主義の合理性 近代化の効率主義 は、皆の幸せに行きつかない ということになります。
「装飾がないということは、それだけ労働時間の短縮と賃金の上昇に直接つながる……装飾は労働力の無駄であり、したがって健康も損なう。過去もまさにそのとおりであった。だが今日では資材の無駄使いということを意味するようにもなっている。そしてこの両者を合せれば、まさに資本の無駄使いということを意味する」アドルフ・ロース
近代主義の限界は、建築家という職業では顕著です。
現代の建築家は、メーカーの既製品を説明書通りに組み立てるだけの職業になり、設計・建設にかかる時間は短く、収入は低く、歴史的に価値ある建物を身近に持ちながら、比較にならないほど安っぽい建物しか建てられない職業になった。築数百年の建物が身近にありながら、自らが設計した建物は10年も経つとボロボロになる、何故か?を自問してきました。築30年以上の自作を自信を持って案内出来る建築家が何人いるだろう。
日本には、良い職人さんが(減りつつはありますが)居るにも関わらず、良い建物が出来ないのは、設計と建設の実態が職人さんの実態と切り離されたからだと思います。金融が実体経済を反映しなくなったのと似ていますね。
金でなく、モノの現実と向き合う職人さんという生き方が、資本主義以降の人の生き方のモデルになるのではないかと考えています。
最良の職人さんは、快楽のために働きます。腕を試すに値しない仕事は、金を積まれても受けません。快楽のための仕事と、金のための仕事は異なります。外国の家具のライセンスを借りた家具が、いかほど高価でも生きた感激を与えないのは、職人さんの快楽のために造られていないからでしょう。快楽のために造られたモノは人を幸せにします。人が生きる理由について教えてくれるように思います。
では、快楽のために働く建築家とはどのように働くのか?
そのモデルが宇野友明さんでした。
東海地方では、宇野さんを師と仰ぐ建築家・職人 が多いことは一般には知れ渡っていません。
職人とモノについて知り尽くし、快楽のための建築設計をしている日本でも指折りの建築家だからです。
どうやって宇野さんに近付くか、あるいは自分と宇野さんの違いを認識して異なる道を選ぶか。東海のデザイナー・職人の基準点のような人です。
その宇野さんが、「海外から僕のドアノブやストーブを売って欲しいと再々言われて、無下に断れず困っているんだよ」と相談を受けたのが1年前。「僕は時には数年掛けてクライアントとの間に全幅の信頼関係を築く。イギリスやオランダの顔も知らない人達と、そんな関係を築けるだろうか?僕の作品を本当に理解し、建築家とクライアントの関係を築けるなら、僕は彼らのために働きたい」
そこで、今までに宇野さんから受けた薫陶の恩返しとして、少量受注生産で、宇野さんの建築プロダクトを売るオンラインショップを作ることにしました。
金額で比較されるアマゾンや、不特定多数を対象とする雑誌とは異なり、クライアント候補だけが集まる場を 将来的には、優れた職人さんと、高品質のプロダクトを設計する若いデザイナー達に、提供したいとの思いもありました。
とりあえずは、宇野さんに問合せのあった国: イギリス・ドイツ・オランダ・スイス・アメリカ・ドバイ を対象とします。日本国内であれば、宇野さんにお会いして直接依頼する方が良いので、とりあえずは対象から外そうと思っています。
前近代的な「場」ですが、現代的なところもあります。
既製品と比べると、10〜30倍の価格となるオーダーメイドの商品を、写真を見て購入して頂くのは本意ではありません。
そこで、ロンドン在住の信頼する建築家の友人を代理人とし、実物サンプルを預けることにしました。
日本に滞在経験があり、職人を尊敬する彼女は、「快楽」として代理人を引き受けました。
こうして、欧州に1人。アメリカからの依頼が増えたらアメリカにも1人 代理人を立てます。
実物を試してから購買して頂くと、お互いに安心感が増え、クレームも減ります。
会議はSkype、日常の連絡はLine です。
本日(3/11)サンプルがロンドンに届き、来週には首を長くして待っていたクライアントの手元に届くことでしょう。
こうして、ショップが始まりましたが、誤算がひとつありました。